3.「現実逃避と決意」
2007年1月・奈良
あれからも僕らの日常は続いていた。
結局のところ、会社の経営が危なかろうが、僕らにはどうすることもできない。でも・・・・
「このままでええんか・・・?」
いつ工場が無くなってしまうかも分からない。そんな仕事に夢は感じられない。
「おー、マスターピースが企画を募集してる!!」
社長の息子がネットを見ながら声を上げていた。
「見せてください!」
僕はネットの画面をじっと見た。
----MSPC PRODUCT 販売員募集----
そして、隅の方に・・・
----企画も同時に募集中----
「本当ですね。」
確かに募集してる・・・
日本のバッグブランドの中で、マスターピースと言えば、5本の指には必ず入る有名なブランドだ。僕の工場でマスターピースのバッグは作っていないけど、雑誌では良く目にする。
この時、僕はマスターピースに応募することを決意した。でも、自信が無かった。企画では無く、僕は職人側の人間だ。そんな僕がマスターピースで企画の仕事を出来るだろうか。
「いやいや。そんなことは考えんでいい。とにかく応募してみよう」
仕事からの帰り道、コンビニで履歴書を買い、二四時間やっている写真機にて履歴書用の写真を撮影。その日の夜中、既に僕は郵便ポストの前にいた。
本音を言えば、職人として今の工場で働き続けていたかった。