「実際、やばいんですか?」
僕は冗談交じりで聞いた。
「・・・まぁ、お前が気にする事ちゃうわ! はよ休憩から戻れ!」
先輩は僕に言うと、静かに仕事へと戻っていった。
「・・・」
この時、僕はようやくカバン業界の現状と現実が見えた。
大好きな革に関わって、モノ作りへの興味が出てきた最中のことだった。
中国をはじめとしたアジア圏でモノ作りをすれば、安くてそれなりのバッグが出来てしまう。日本製はクオリティーが高いし、そこに対してはプライドもある。けど、ここ数年のファッションシーンを見ていると、大半のお客さんはクオリティーが高くて長く使える物よりも、安くて何時でも替えが効くようなものを求めているのでは無いだろうか。
「このまま仕事が減ったら僕らはどうなってしまうんやろう・・・」
僕はそんなことを考えながら仕事に戻った。
その夜のことだった・・・社長がみんなに言った。
「仕事が終わったら残業とかせんとすぐ帰って!電気代も馬鹿にならん。」
どうやら、僕らが抱いていた不安は現実味をおびてきているようだ。先輩があの休憩時間に言わなかったこと。きっと、先輩たちには社長も何か話をしていたんだろう。
不安になった。経営はそんなに切迫していたのか。しかし、会社を経営する社長の言葉としては至極当然だとも思う。
僕がこれから生きていこうとしていた業界はそんなに厳しい業界なのか? 実際、僕みたいに若い職人は少なかった。周りはベテランの方々ばかり。
「この仕事に将来はないんかもしれん・・・」
社長の宣言通り、定時に電気が消えた工場を後に、僕は家路へと急いだ。いつも以上に地面のアスファルトが冷たいような、そんな気がした。