私は常日頃、他の工場とも交流を持っています。海外生産が増えていくにつれて、日本の工場は元気を失っている。職人たちの中には子供のいる者も多い。家族で営んでいる小さな工場もある中で、子供たちはそんな親の背中を見て、将来職人になろうと思うのだろうか? 職人たちも子供たちに職人を継げと強要は出来ない。
冨士松さんにはそんな話もついついしてしまうんです。
「なるほど・・・」
冨士松さんは私の話に深く頷き、聞き入った。
彼自身、私の工場を含めてたくさんの工場と仕事をしている。深くモノ作りを考えている人だと思う。
「では、また!」
冨士松さんは帰り支度をして笑みを浮かべると、車に乗り込んだ。
「お気をつけて!」
私も笑みを浮かべて見送った。
私たち工場は昔ながらの技術でカバン作りをしています。職人もベテランが多く、彼らの技術は素晴らしい。それを若い子たちに引き継いでいき、後世にも残していきたい。
私自身、年齢的にも近々引退だ。
「それまでに何かできへんやろか・・・」
日常の中でこういったことを考える機会はたくさんあります。しかし、日々の忙しさの中、今日も日常は変わらずに過ぎていくのです。