master-piece presents
「僕らの工場計画」

2.「夢見る青年と現実」

 2007年某日・奈良

 先程から時間も場所も変わり、ここは奈良のとある小さな工場・・・・

 「おはようございまーす!」

 「おはよう!惠くん!」

 出社をしてたくさんの人と挨拶を交わすのは気持ちがいい! 僕は惠(めぐみ)と言います。これは苗字です。惠というと女性の名前を連想するかと思いますが、女性じゃなくてすみません! 僕は奈良の小さな工場でカバンの縫製をしている職人です。生地の裁断から革の加工、金具の打ち込み、外注仕事のデリバリー作業など、たくさんの業務を毎日行っています。目まぐるしく日々が過ぎていき、なかなか大変ですが、先輩たちから教わることも多く充実した毎日を送っています。

 洋服が好きだった僕は学校を卒業し、アパレル会社に就職しました。しかし、夢だったアパレルも自分の思い描いていた理想とは異なり、一年で退職・・・その後、革製品が好きだったこともあり、今の工場で職人として働きだし、モノ作りについて勉強しています。モノ作りを始めてから思ったことですが、僕はモノ作りに向いているのかもしれません。毎日が楽しくて仕方がない。

 「頑張るぞ!」

 「ハ―――・・・・・」

 ん? 僕のモチベーションとは裏腹にため息が近くから聞こえてきた。ため息の主は先輩だ。

 「先輩、どうしたんですか?」

 「おぉ、惠くん。お疲れ様。」

 「どうかしはったんですか?」

 「最近、発注が減ったと思わんか?」

 先輩はこちらを見ながらゆっくりと言った。

 確かに。入社した頃よりも時間に余裕が出来た気はしていたけど、自分が仕事に慣れてきた証拠だと思い込んでいた。もちろん、それもあるだろう。だけど、最近大手カバンメーカーからの発注が減っているのは先輩たちの会話でちらっと耳にしたことがあった。