INCASEが世界中で評価され続ける理由。

21世紀におけるテクノロジーの最大の発展は、コンピュータを持ち運べるようになったことだ。それは社会との親和性を高め、より多くの人々同士が結びつき、生活そのものにコンピュータが溶け込み、大きな変化をもたらしている。そんなライフスタイル・デバイスとして確立させたのはもちろんAppleで、そのフローを支えるとともに戦略の一部にもなったのが、カリフォルニア生まれのバッグ&ケースブランド、INCASEだ。Appleも認めたiPhoneケースやラップトップ用バッグは、テクノロジーの進化とそれを取り巻く環境のバランスを整えてきた。様々なファッションブランドとも結びつき、多くのクリエーターが愛用している。その魅力に少し触れてみたい。サンフランシスコのダウンタウンに構える本社へ趣き、CEOのトニーさんとデザイナーのモーゼスさんに、話を聞いてみた。(文・小澤匡行)

テクノロジーの進化に追従できないケース市場への疑問

INCASEブランドの起源は、20世紀も終わりに近づく1999年頃のこと。当時のAppleは、クラムシェルと呼ばれる貝殻のようなデザインを採用した、新しいiBook G3が人目を引きつけていた。キャンディカラーに彩られた、半透明で丸みを帯びた筐体は「iMac to go」(持ち運べるMac)というキャッチコピーを添え、個性的な見た目とコンセプトの双方で先進性をアピール。そんなテクノロジーが成長の一途を辿り、デバイスにデザインが求められた時代において、それを包む、取り囲むアクセサリーが悪い意味でベーシックであり、面白みに欠けるものだとトニーさんは思っていたという。当時、NOKIAのとあるプロジェクトに関与していたトニーさんは、機能とデザインを兼備したケースを求めてコンサルタントに相談。そこで出会ったのが、現在の同僚であるジョーとボビー。会えば意気投合に時間はかからず、一緒に仕事をするように。そしてINCASEは極めて少人数の、スモールカンパニーとして歴史をスタートする。黒いごつごつとした“ただの”ラップトップケースしかなかった時代に、彼らが目指していたのはもっとずっと先にあった。精密機器をプロテクトするケースではなく、使用者にやさしいケース。つまりライフスタイルにフィットするための、かゆいところに手が届くケースという、新しいアプローチだった。思ばそれは、Appleが目指していたことと、ほとんど同じだったといえる。

INCASEが世界中で評価され続ける理由。

Appleのミニマリズムに呼応した機能とデザインの両立

2001年、ブルーのダルメシアンカラーのiMac G3がラインナップに加わり、真っ白なiPodが登場し、iBook G3がデビューする。コンピュータは確実にまた一歩、新しい時代へと進んでいたことを、感じずにはいられない年でもあった。そして同年に発売されたPowerBook G4 Titaniumを購入したINCASEチームは、その専用のケースを作ってAppleをプレゼンする。折しも当時は、Apple Storeがまだアメリカの一部でひっそりとオープンしたばかり。オンラインストアも含めてデバイス以外の製品にも力を入れようとしていたAppleは、INCASEのデザインコンセプトに親和性を感じ、取り扱いがスタートする。その決め手は「四隅の丸み」。1960年代のBraunを手掛けたドイツの巨匠、ディーター・ラムスのデザイン哲学でもある「Less is More」のフィロソフィーが息づいたデザインは、それまでの話題性を集めやすい通俗的なビジュアルに代わり、優雅さと高級感を与えた新しいサーフェスだった。潔いほど直線的で、少しだけ流線型。そのこだわりとメッセージ性を正しく理解し、デザインに反映していたのが、数ある競合他社の中でも唯一、INCASEだけだったという。ぴったりと吸い付くように保護されたネオプレーン素材のケースなら、収納してもコンピュータの美しさを表現できる。また四隅のラインも沿うことでプロテクト性も高められる点において、INCASEのケースは圧倒的に洗練されていた。それは新しいミニマリズムに呼応するだけでなく、手つかずであったケース市場のデッドスペースをも埋めることができたのだった。

INCASEが世界中で評価され続ける理由。

テクノロジーを駆使するクリエイターの日常をサポート

その後もINCASEは会社規模こそは大きくなるものの、使用者にやさしいケースを目指すために若者へのリサーチは変わらず徹底していた。するとデザイナー、音楽関係、映画関係、スケーター、DJ、スノーボーダー、自転車乗り。色々なクリエイティブに携わっている若者たちに共通して、Apple製品への興味が高く、使いこなしていることに気付く。それぞれの分野に突出する人は、総じて「おしゃれなギーク」だったのだ。トラックを製作する、曲を編纂する、結びつける、撮影した映像を編集する、それをブログやSMSやYouTubeにアップして、クリエイティビティを表現する。すべてにAppleが不可欠だった。いつ何時もラップトップやカメラを持ち運び、洒落た雑誌も持ち歩く。そんなAppleを中心に日常が回る若者たちが必要なものを満たすケースを作ればよい。ラップトップ専用、モバイル専用はもちろんのこと、すべてをオーガナイズするケース、つまり機能的なバッグの開発に注力していく方向性を定めるように。INCASEで働く社員も、みな何かのスキルに長けていて、Appleに対して情熱的だ。本社の入り口には彩り豊かにカスタムされたロードバイクが立てかけられ、年季の入ったスケートボードが置いてある。社員の通勤ツールである。そんな彼らのネットワークを駆使し、クリエイターからのフィードバックを繰り返すうちに完成されたのが、ビームスが度々別注しているバッグの元となる「Campus Pack」。ラップトップ用、iPad用のスリップポケットがメインのインサイドに設けられ、外部のジップポケットには、スマートフォンやカメラなどが美しく収納でき、素早くアクセスできる。一瞬も、一日も快適なバッグは、クリエイティブな日常を過ごす若者の心を確実にキャッチ。そして新たに発売されるビームス別注のハイライトはラップトップの側面やエッジなど全方位をカバーできる「360°PROTECTION」システムの採用。デバイスがより薄く軽くなる現在、ハードウェアの脆弱性もしっかりカバーしているところはさすがだ。

INCASEが世界中で評価され続ける理由。

ラップトップを持ち運ばない若物の日常をもサポート

新世代コンピュータというビジョンを示すAppleに追従することで、新感覚なケースを段階的に視覚化してきたINCASE。その繰り返しにより今では、インディペンデントなブランドとして認知されるように。トニーさんは、ラップトップに縛られない、もっと普遍的なバッグも今後は注力していくという。よりクリエイティブな表現を目指す若者にとってラップトップは不可欠な存在だが、それ以外の多くの若者はジーンズのポケットに収納できるiPhone一つで、すべてのコミュニケーションが完結する時代。目指すべきはスマートフォンを持ち歩く人々にとって本当に優れたバッグなのだ。一介のプロテクション・ケース・ブランドではなく、ライフスタイルの変化とともに進化するブランド。テクノロジーの発展が人々の生活を変えていく限り、INCASEは時代に応じた魅力を提供できる、優れたコンセプトと形に出来る実力をもっているのだ。

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