selecter

選んでくれた人

XTAL

http://www.xtal-jp.com/
  • #1.中島みゆき 『愛していると云ってくれ』

    今年後半は誰とも共有することなく、1人でひたすら中島みゆきを聴いていた。78年のこのアルバムは最初から最後まで完璧。聴きどころは枚挙に遑がない。”化粧”の嗚咽混じりの世紀の名演は何度聴いても堪らないし、”おまえの家”の優しさと諦念が混じったトーンと、”世情”の預言者の老婆のようなトーン(特にラスト近くの一節は今まで聴いたあらゆるボーカル表現の中でも最高のものの一つ)が並列されている歌の表現力に驚愕する。語りにオルガンの独奏がフェードインしてくる”元気ですか”と、合唱がオーバーラップされた”世情”という重層的なアレンジを施した曲が、最初と最後に配置されていることによる深みもある。音質とミックスも素晴らしく、はっぴいえんど『風街ろまん』に並ぶ吉野金次ワークだと思う。

  • #2.中島みゆき 『生きていてもいいですか』

    ”うらみ・ます”、”エレーン”、”異国”といったヘビー級の楽曲が収録され、中島みゆきの作品中最も暗いとされる80年作だが、傷に塩を塗るような気持ちでこのアルバムを聴く訳ではない。自分は手ひどい捨てられ方をした女でもなければ、死んだあと亡霊になり街を彷徨う外国人娼婦でもなければ、故郷に戻れず永遠に寄る辺ない気持ちを抱えた人間でもない。しかし自分の中に淀んでいるある種の暗い感情が、こうしたマキシマムな歌たちにより心の外に連れ出され解き放たれる、そんなパワーをこのアルバムは持っている。

  • #3.中島みゆき 『あ・り・が・と・う』

    収録曲”店の名はライフ”が好き過ぎる。詞の舞台は喫茶店だが、クラブ、ライブハウス、レコード屋、レストランなんでもいいが人々が集まり物語を編む場所に置換可能で、そうした場所への賛歌であり、それがいつかは無くなることへの鎮魂歌でもある。ゆっくりしたグルーヴィーな演奏も堪らないし、坂本龍一のエレクトリック・ピアノも効いている。