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選んでくれた人

XTAL

DJ / Track Maker

http://www.xtal-jp.com/
  • #1.Daedelus 『What Wands Won't Break』

    今年最もよく聴いたアルバム。今までのDaedelusの作風からは飛躍があると感じ、最初は面食らったが、徐々に引き込まれていき、最終的には自分の感覚を塗り替えられるような体験になった。本作の中心は、DAWソフトウェアのAbleton Live付属のエフェクター・Drum Busなどで、極端までに歪められブーストされたドラム・サウンドである。膨張し爆発するドラム・サウンドだけで十分ということだろう、他には声やフレーズのサンプルがいくつかの曲で聴くことができるのみだ。このサウンドに辿りついたのには、機材の全てのフェーダーやノブを最大値にしてプレイするRas G、そしてそのRas Gから借りたというTricia Rose著による書籍『Black Noise』の影響も大きいと言う。また2017年リリースの”Wears House”により、既に1990年代初頭のUKレイヴが自身のルーツにあることを明かしていたが、このアルバムにもそれを感じることが出来る。レイヴの巨大なスピーカーから、あるいは海賊放送を受信するラジオから、Daedelusが聴いていたであろうワイルドなサウンドがここにブーストされた形で閉じ込められている。そして、ジャングルのパーティーのピークタイムを10倍速にして凝縮させたかのようなアルバム終盤のトラック”Zenith”で、全ては爆発し飛び散り続け、点滅するフラッシュライトの隙間から最高のパーティーの幻影が見える。2020年はこのトラックを何度も爆音でプレイして、喜びの涙を流した。

  • #2.1010 Benja SL 『Woodrow』

    今年最も聴いたシングル。Princeのピアノ弾き語りと並ぶかのような、切なさとグルーヴ。そしてそれに突然冷や水をぶっかけるような、フリー素材かと疑う「Cooool!!」というボイス・サンプルをデカい音で被せてくる現代的センス。ピアノと歌だけという構成ながら、グルーヴがとにかく際立っている。リズム楽器がないダンス・ミュージック、という見方をするなら、今年ベストのダンス・トラックでもあった。2020年はこのトラックに合わせてよく歌い、ダンスした。

  • #3.青葉市子 『海底のエデン』

    今年最も印象に残った曲。夏から秋への変わり目、真夜中にぱっちりと目が覚めてしまった夜、真っ暗な部屋の中でこの曲を何度も聴いていたら、どっかいってしまいそうになった。主体や客体が、場所や時間が、何の予告もなく入れ替わり、溶け合う。そうした感触をもたらす歌を聴いたのは、個人的にはFishmans以来だった。