そんな山根さんも色々とマスターピースのカバンについて苦労している。
マスターピースでは普通ならカバンに用いないような生地をバッグに用いることが多い。
山根さんも人生の中でたくさんの生地を裁断してきたと思うけど、たまに
「この生地をバッグに使うの!?」
と驚きを隠せないときもあるようです。
異素材のコンビネーションを謳うマスターピースならではの悩みなのだろうけど、こればかりはマスターピースのやり方に慣れてもらうしかない(笑)
そんな山根さんが次のバッグに使用するレザーを持って裁断場からやってきた。
「惠くん、このレザーを見てくれるか?」
がばっとレザーを広げるとそれは下地段階のレザーだった。
下地とは、レザーに鞣しなどの加工を入れる前段階のもの。
レザーは基本的に鞣しや着色など色々な工程を経て化粧をしていく。その際に生き物が生前に負っていた傷などもある程度は隠れて製品にしたときに見えなくなる。
しかし、下地であるこのレザーは加工を一切入れていないため、傷なども目立ちやすい。
「こんなの俺は裁断できへん。バッグを縫ったとしても、新品のバッグには到底見えへんぞ。B品と勘違いされて戻ってきても困る。お客様にこんなものを出すなんて考えられない。」
さすがのこだわりだ・・・
これも自社ならではのこだわりだと思った。
普通の取引先と工場の関係なら裁断の仕事を渡されたら、そのまま言われるがままに裁断をして送り返すだろう。それは流れの一環であって、そこに変なこだわりはいらないからだ。
しかし、自社で工場を持ってやるということにおいては重要な役割を担ってくる。
その工場がその仕事をした、ということが一発でわかってしまうからだ。
山根さんはマスターピースの職人として誇りを持ってやってくれている・・・
僕は嬉しくなった。