「山根さん、実はね、これはビンテージ感を演出する企画なんです」
そう。これはコラボレーションアイテムなのだけれど、ビンテージの洋服などの感じを出したいと先方から依頼を受けた。
そこで、普通のレザーを使ったら綺麗に出来すぎてしまうから、あえて加工を入れる前のレザーを用いることにしたのだ。
確かに普通の企業だったら傷などが目立ってしまうので、こういった下地のレザーを用いることはない。
もちろん、この商品は今までにないチャレンジになるのだけど、サンプルを作って問題がないことはきちんと理解している。
サンプルを作成したのは西田くん。
彼はこのBASE大阪に移動してから「サンプル師」というポジションに就いた。
サンプル師とはサンプルをメインで縫う職人のこと。
通常、工場ではこのように肩書を付けるのは珍しいことだ。
しかし、マスターピースではサンプルがかなり重要視されている。
サンプルでいいものができなければ、量産でいいものを作るなんて不可能なのだ。
企画が立てた平面の企画書を見て、どれだけそれを企画が思う立体のカバンに近づけるか、これはサンプル師の手一つに懸ってくる。
サンプルを縫う際には、技術はもちろんセンスも必要。
所詮、企画書は図でしかない。
カバンのサイズやフラップの大きさ、細かいポケットのディティールなど、企画書の通りに作ったとしてもバランスが上手くいかないことは多々ある。
マスターピースの工場ではサンプル師という役職を作り、サンプル制作に集中させることでより一層、サンプルのクオリティを上げることができるよう、努力しているのだ。
サンプル師の経験や、ちょっとした気遣いで平面の企画書に命が吹き込まれ立体になる。
これには向き、不向きもあるのだけど、西田くんは元々、カバン工場を営む家系の生まれ。